宿泊やコスプレ撮影も。宮大工の技が見事な「お花茶屋 森谷邸」のシェア・プロジェクト


宮大工が3年をかけた本物志向の和風建築

上野から京成本線で20分のお花茶屋駅から徒歩約8分、住宅街の中に「お花茶屋 森⾕邸」がたたずむ。宮⼤⼯が3年余りをかけ完成させた伝統的⽇本建築で、情緒ある雰囲気が訪れる者を魅了する。

広い⽞関に足を踏み入れると、天然⽯が鎮座する、威厳のある⾼い上がり框が待ち受けている。屋内は、天井⾼3mの居室が特徴的だ。⼀続きとしても使える書院造りの4部屋の和室、欄間をはじめ組⼦が随所にあしらわれた建具、存在感ある桁丸太が⽀える⽇当たりの良い広縁と、どれも⽬を⾒張る素晴らしさ。さらに⼿書きの襖絵、天然⽊⼀枚板の座卓や雪⾒障⼦、柱時計など、お屋敷ならではの雰囲気に圧倒される。まぎれもない「本物」の空間だ。

純⽩の漆喰壁が目を引く別館には、天井⾼4mの⼟間があるほか、居室やキッチンも備わっている。

この森⾕邸は、現在アート関連のワークショップ、⾷に関するイベント、さらには撮影会などに活⽤できるシェアスペースとなっている。また2018年の秋には「旅館業許可」を得て、宿泊も可能となり、「和」の多⽬的スペースとして展開中だ。



森谷邸の再生に向け、上質なシェアスペースに

この森⾕邸を運営しているのは「合同会社お花茶屋Labo」。⽴ち上げメンバーは、不動産関係、税理関係、マーケティング関係など、異業種の有志5⼈だ。もともと全国の借地を有効活⽤しようという勉強会「定期借地研究会」の仲間だった。

彼らはたまたまの縁で、2017年春に森⾕邸に出会った。ちょうど、森谷邸のオーナーは、相続を済ませたタイミングで、ここをいかに有効活⽤すべきか悩んでいた。森⾕⽒は、この界隈で代々農家をしていた地主で、この伝統的⽇本家屋は、先代が建築に⼼⾎を注いだが、先代および奥様も亡くなり、しばらく空き家状態だった。

移築するなど、いろいろな不動産関係の会社から提案もあったそうだが、オーナーとしては、漠然とそのままにしておきたい意向があり、具体的に何をすべきか悩んでいた。

オーナーのヒアリングを行った5人は、2017年夏に、上質な多⽬的シェアスペースをテーマに企画書を提出した。このコンセプトをオーナーに気に⼊られ、11⽉に5年間の定期賃貸借契約を結ぶことに。5⼈のメンバーで⽴ち上げた⽬的会社「合同会社お花茶屋Labo」とオーナーとの契約という形になり、半年間はフリーレント契約で、その後は、⽉々の家賃払いとなった。建物⾃体の状態は良いが、残された家財があまりにも多く、その整理に追われると半年間は運営ができないことを考慮してもらったのだ。

メンバー5⼈は仕事の合間を縫って毎週末、後⽚付けをこなしていった。
事前にオーナーから、家財は捨てるなり、売るなり⾃由にしてよいとの許諾をもらっていた。洋服や和服がたくさん入った箪笥が10竿、さらに⾷器棚も4つあり、お⽫がぎっしりと置かれ、なかには値札がついたままのものまであった。

そこで、メンバーは、森⾕邸で2018年1⽉にマルシェを開催し、不⽤品を近隣に販売することにした。⽑布が⼀番⼈気で、1枚200円で販売したそうだ。さらに⽴⽯で開催しているマルシェの⽅に協⼒いただき、不用品の販売だけではなく、近隣の野菜販売や整体師によるマッサージを行う等、よりイベント性を⾼めていった。⼝コミで近隣に広まり、近所のおばあちゃんが駆け付けるなど、地域とのつながりができた。2⽇間でのべ約300⼈が集まったそうだ。



和風建築での撮影需要が伸びている

運営を開始した2018年の春以降、森谷邸は多⽬的スペースとして、お花茶屋Labo主催でのイベントや研修、撮影など多彩な利⽤があり、収益が⾒込めるようになってきたそうだ。

2018年3⽉、⽚づけのメドが⽴ってきたころ、たまたまメンバーの知り合いの雑誌編集者がやってきて、ここを気に⼊り、雑誌の撮影に使ってもらった。さらにその縁で、次々と撮影予定が⼊っていったという。またそのころ、スペース貸しのマッチングサイト「スペースマーケット」や「東京ロケーションボックス」に掲載を始め、そこ経由での時間貸しの需要も⾼まっていった。

スペースマーケット経由では、コスプレ⼥⼦からの引き合いが多くあり、キャリーバッグを引いたコスプレーヤーたちが全国からやって来た。和⾵建築にふさわしく、刀を擬人化したゲーム「⼑剣乱舞-ONLINE-」をテーマにして毎回30名前後が集まったそうだ。さらに夏はすいか割り⼤会などのアトラクションも盛り込み、コスプレの撮影以外も楽しんでいた。
CM撮影では、有名⼥優、⼈気若⼿俳優による本格的な撮影現場となったようだ。和の⾼級なイメージを活かし、ある⾦融機関のCM撮影に使用された。

さらに、ユニークな引き合いでは、芝居⼩屋としても利⽤された。普段の⽣活空間であるお茶の間が舞台で、観客は窓際や庭から⾒るという仕掛けだった。好評だったので、2回⽬の開催を調整中とのことだ。



旅館業法改正によって、宿泊が可能になった

当初は、この建物を⺠泊にすることも視野に⼊れていたが、2018年6⽉の旅館業法の規制緩和の動きを受け、最終的に旅館業の許可を得た。⺠泊では年間180⽇のみ稼働という規制がネックになるからだ。

もっとも、以前の旅館業法はハードルが⾼く、もし5⽉に申請していたならば認められなかったことだろう。例えば、改正点としては、最低宿泊部屋数が5部屋以上だったところ、1部屋からになった。また、最低床⾯積やトイレの数が緩和されたほか、フロントの設置義務がなくなり、ゲスト本⼈を確認できる無⼈カメラだけでもよくなった。そのかわり駆けつけ要件というものがあり、エリアによって詳細は異なるが、葛飾区の場合はスタッフが10分以内に来られることが条件となっている。

そこで、鍵の受け渡しや緊急対応などの業務を担うスタッフとして若いカップルを採⽤。敷地内の、⽼朽化が激しく⼿つかずだった管理棟(平屋の2DKの古家)を急きょリノベーションし、住んでもらっている。



アート・食を絡めたイベント等で差別化戦略

宿泊に⼒を⼊れていくにあたり、森谷邸ではインバウンド需要を⾒込んでいる。東京の東側のターミナル、上野や銀座等から近く、お花茶屋駅の隣の⻘砥駅は、成⽥空港や⽻⽥空港から1本でアクセスが可能という便利な⽴地だ。⻘砥駅からはタクシー利⽤で10分程度で、外国⼈客も視野に⼊る。

「今後は、アートや⾷のイベントと宿泊とを両輪として、運営をしていきたい」と運営メンバーの⽊村美穂さん。

これから増える外国⼈観光客に⽇本の⽂化やアートに触れる機会をつくれば、それが結果的に宿としてのブランディングに役⽴つと考えている。今後のインバウンドは、いつかは踊り場にさしかかり伸び率も鈍化するだろう。それに備えた差別化だ。

⽊村さんは京王線の明⼤前駅に賃貸物件を所有しており、これはそこでの実体験に由来する考え⽅だ。昨年の⺠泊新法適用前まで、Airbnb(エアービーアンドビー)に物件を掲載していた。部屋のイメージを良くするために若⼿クリエーターに依頼して壁画を描いてもらうと、それが外国人ゲストにとっての魅⼒となり、泊まってみたいという動機づけになったそうだ。

森⾕邸では、例えばアーティストとの交流の機会を持ち、さらにワークショップで制作体験をすることなどを検討中だ。候補に挙がっているのは⽊版画づくり。欧⽶では葛飾北斎や歌麿などの作品が⼈気で、外国⼈は現代の⽊版画への関⼼も⾼いからだ。⽇本⼈は、⽊版画が⼩・中学校の図⼯の授業で⾝近な存在だが、外国⼈にとっては珍しいという。

また、⾷に関わるイベントも⽇本⼈、外国⼈ともにニーズが⾼い。

昨年2回ほど開催した「味噌作り会」は、キャンセル待ちが出るほど⼤盛況だった。2⽉には、前年に仕込んだ味噌を使っての料理会も検討中だ。また、フライパンでパンをつくれる、パンのワークショップも開催し、⼦どもも楽しめる企画として好評だった。

木村さんたちは、宿泊者にアートを楽しんでもらったり、料理教室にも参加してもらったりすることを、ここに泊まる動機づけにしていきたいと意気込む。
イベントと宿泊の両輪戦略、今後の展開が楽しみだ。

転載元:LIFULL HOME’S PRESS